外山滋比古

      「日本語の作法」
                 外山滋比古(とやましげひこ)

 アメリカ歴代の大統領の中でもとくに話のうまかったとされるウィルソン大統領が、
「二時間の話なら、いますぐでも始められるけれども、三分間のあいさつだったら、用意に一晩はかかる」
という意味のことを言ったのは有名である。
 そんなことを知らない日本人は、会の直前になって
「ちょっとひと言」
と言われると、気軽に引き受ける。いよいよ立ち上がって、しゃべる段になっても、何をどう言えばいいのか、はっきりしていない。それでも口は動くのである。話しているとはずみがつく。出まかせみたいなことを早口でしゃべるが、ブレーキがきかないから、オーバーランとなって、聞いているものをうんざりさせる。
改まった席でのスピーチを頼まれたら、よほどよく考えないといけない。ことに慣れない人はまず書いてみる。風を入れて読み返し、手を加える。再編である。さらにそれを推敲して定稿にする。そしたらこれをよく頭に入れ、当日はそれを忘れて会場へ赴く。
 スピーチの心得として、まず心がけなくてはならないことは、長くならないこと。そのためには、あらかじめ、出だしと締めくくりのことばを考えておかなくてはならない。終わりがとくに難しい。
 普段からめったに本を読まないような人たちからも読みやすい、わかりいい文章だと人気のあったある作家がいい文章を書くコツを聞かれて
「同じことばを繰り返さないことです。同じことばが出てくると、文章が後戻りしたり、停止したようになります。私は、一枚の原稿用紙に同じことばを二度と出さないように心がけています」と答えた。
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※この作品を読んで、文章の中で同じ言葉は使用しないように努めている。「大弁(たいべん)は訥(とつ)なるが若(ごと)し」と老子が言っているように、人は話を聞いていて1分30秒経つと長い感ずるらしい。念頭に置きたいものだ。
     
           平成26年11月28日 記