能面紹介(怨霊面)

    

            生 成(なまなり)
 能の家の記録に「是は般若に今少し足らぬ所の面なり。角みじかきゆゑ生成と名付なり」とあるように、角は般若よりぐっと小さくできている。金具の眼と歯、大きく開かれた口、小さい牙など普通の怨霊面とあまり変わらない。般若にはなかった赤い舌も見え、口元は凄まじい形相であるが、毛描きや眉墨は般若より女性らしくなっている。般若の敵愾心(てきがいしん)を一層強く表現したのが「蛇」であり、「生成」は反対に般若になる以前の面と言える。


    


  

               般 若
 般若は,女性の嫉妬(しっと),怨念,悲しみ,嘆きなどを一つの面の中に融合したものである。2本の角を持ち,眉間をしかめて,頬を硬直した鬼女を表現した相貌だ。般若と呼ぶ二つの説がある。一つ目の説は、室町時代,奈良に住む僧侶般若坊が芸術性を盛り込み創作した面というもの。二つ目の説は、仏教では悟りの智恵を般若といい,智恵を使って鬼の面を制作したというもの。


      

           真 蛇(しんじゃ
 怨霊の女面である般若の嫉妬の表現をもう一つ極端にして,とうとう蛇体に化してしまったのがこの面である。したがって、この蛇の面の工作からからは,女性としての要素や性格を見出すことができない。突き出た顎,深く切り込まれた口,真紅の舌など龍や蛇を想像できる。額の毛描きが女性のそれではなく 頭上から力強く垂れ下がっていること,耳をもたないことも蛇としての性格を強調している。



     

            龍 女(りゅうにょ)
  この面は,嫉妬のために宇治川に身を投げ,生きながら鬼女になった女の伝説を基に造形化された。色といい形といい、不気味な感じは否めない。特に目の回りに塗られた朱が曰く言い難い雰囲気を出しているが,優れた造形をもつ面であることも否定できない。