不動(ふどう)
不動明王の面である。右手に利剣を左手に羂索(けんさく)を持ち、悪魔降伏の威力をもっている。能の家では、この不動の面について「一枚面なり。泣不動・調伏曽我に用いる面なり。金剛に有り、また、宝生にも弘法の作の不動の面あるなり。」とあって、不動明王の登場する曲だけに用いる面だとする。
金剛の不動の面については、昔、奈良のある寺が火災に遭ったとき下半身を焼失した不動尊の顔面を断ち割って、それを面に作り直したとの伝説がある。また、金剛氏正が、室町末期に奈良の寺で不動尊の木造を見て、その相貌の素晴らしさに魅せられ、面にして「調伏曽我」を舞ってみたいと思い立ち、夜陰に乗じて尊像を盗み取ったという伝説もある。