西岡常一・小原二郎 

        「法隆寺を支えた木」
 
                    西岡常一・小原二郎 

こういう口伝のいくつかをお話ししますと、
  塔組みは、木組み
  木組みは、木のくせ組み
木のくせ組は、人組み
人組みは、人の心組み
  人の心組みは、棟梁の工人への思いやり
  工人の非を責めず、己の不徳を思え
  また、
木を買わず、山を買え
  というのもあります。
・・・・・・・・・・。
 鉄を木に打ち込むと、鉄のサビでまわりの木も腐ります。木の穴にさしたボルトがサビると穴は二倍もの大きさに広がり、木をそこない、修理の時は鉄材だけではなく木も取りかえなければなりません。鉄は硬く強いように見えますが、生命力は木にくらべてずっと短いのです。ヒノキだけなら千年以上もつ建物を、鉄材と合わせて使ったばっかりに、鉄と無理心中させられるのはいかにも惜しいとわたしは悲しんでいます。
・・・・・・・・・。 
 鉄やセメントの現時点における強さだけを信じて、木のいのちの長さを忘れたこのごろの新技術を、わたしは悲しく思います。
----------------------------------------------------------------------------
※宮大工としての矜持と後世に伝承する使命を感じさせられる。いかにして世界最古の建築である法隆寺の修理をしたか、古代の叡智を述べながら記載している。修理の祭、鉄を使うことを推奨する学者にて対して、頑強に反対した西岡常一は、過去と未来の匠の心を意識しながら、愚直なまでに法隆寺を守っていった。
 山で二千年生きてきた木は、さらに建物にして二千年生きるという。山の頂上、中腹、谷、北側か東側か、風当たりの強弱などすべてを考慮して使用する場所を決めるという。
 効率だけを追求して刹那的に生きる現在の多くの日本人、彼らの忘れてしまった生き方がここにはある。
         平成28年11月30日 記