「能面」
中村 保雄
はじめに
「能は能面の選択からはじまる」と言われていますが、それは能の世界ではセオ
リーのように伝えられ守られてきたものであり、「面の位どり」として、能の演者にと
って重要な部分を占めています。演者は、まず一曲の演技を確かなものとして把
握し、使う能面を選ぶのです。静かに能面に対峙するとき、己が心を能面に注ぎ
能面の心を己がものとするともいえます。能面を生かすのも演者、能面に生かさ
れるのも演者、不即不離、一つのものになりきらねばなりません。それが能である
のです。
能面の心を己のものとした演者が能面をつけるとき、演者の個性は埋没し、完全
に能面によって代表される人物になりきります。現代劇ならば劇中の人物を研究
し、自己の個性を活かし、役柄の表現にも解釈の自由があります。しかし、能には
決まった型があり、曲によって舞も決まるのです。訓練された型と舞のなかで、老
いの悲しみを、花の恥じらいを表現します。演者は、自分の工夫、自分の演出とい
うものをどこに生かしているのでしょうか。それは能面を選択したとき、すでに定ま
っているはずです。能面をいかに活かすか、そこに演者の工夫と技量が求められ
るのです。
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※能面の成り立ちや曲の中でどのように使用されるかなど詳細に記述されてある。
能面を作成する者は、常に座右に置きたい一冊である。
平成27年11月25日 記