「生きること学ぶこと」
広中平祐
人間の脳は,過去の出来事や過去に得た知識を,きれいきっぱり忘れてしまうようにできている。もっと正確にいえば,人間の脳は記憶したことをほんのわずかしか取り出せないようにできているのだ。それなのに,なぜ人は苦労して学び,知識を得ようとするのか。
私は,それに対して,「知恵」を身につけるためだ,と答えることにしている。学ぶという中には知恵という,目に見えないが生きていく上に非常に大切なものがつくられていくと思うのである。この知恵がつくられる限り学んだことを忘れることは人間の非とならないのである。例えば,忘れたことをもう一度必要にせまられて取り戻そうとする時,一度も勉強したことのない,全然聞いたことも経験したこともない人と違って,最低,心の準備ぐらいはできるし,時間をかければさほど苦労しなくてもそのことを理解できることだってある。
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※数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞したのが、作者広中平祐である。40歳以下が対象ということもあり、日本でも受賞したのは3名だ。父親は、織物会社を営んでいたが倒産し、衣料品の行商をして子どもたちを育てた。その生き様に生きることの意義を考えさせられたと書いている。「学ぶ」ということを改めて考えさせられる作品である。
平成27年3月18日 記