山本謙吉

      「現代俳句」
                山本健吉

     行く我にとどまる汝(なれ)に秋二つ    正岡子規

 明治二十八年の作。「漱石に別る」と前書がある。この年従軍して大陸へ行き、帰途船中で喀血した子規は、三月ほど神戸・須磨で療養し、八月に松山へ帰ってきて、漱石の下宿にころがりこんだ。その年四月に、漱石は愛媛県尋常中学校の教員として、松山に赴任してきていたところである。そして、子規は、連日松山の俳句仲間を集めて句を作り、とうとう漱石も運座連中の一人にまきこんでしまった。 
 この句は、五十日ほど松山に滞在して、十月十九日に上京するとき、漱石に与えた留別の句である。

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※山本健吉は、柿本人麻呂や松尾芭蕉の研究で知られた碩学である。膨大な資料から、その人となりと作品を分析している。文芸評論家として、この作品「現代俳句」で、正岡子規、夏目漱石、高浜虚子、村上鬼城、山口誓子など42名の作品を鑑賞している。俳句を愛好する人は、座右に置きたい一冊である。
 大学の時、山本謙吉が教授として教鞭をとっていた。著名な文芸評論家だったのでゼミを履修したが、当時学生運動の影響で大学はロックアウトになり、レポートになってしまった。ちなみに書いたのは、松尾芭蕉の「ほろほろと山吹散るか滝の音」の鑑賞文であった。遠い記憶である。
        平成26年10月22日 記