吉井 勇
かにかくに祇園はこひし寝(ぬ)るときも枕のしたを水のながるる
雨降りて祇園の土をむらさきに染むるも春の名残りなるかな
先斗町の遊びの家の灯のうつる水なつかしや君とながむる
良寛はおもしろきかな世をわびてみづからとなふ襤褸(らんる)生涯
光悦のすぐれし文字の冴えも知る本阿彌切(ほんあみぎれ)のたふとさも知る
うれしきは君にもあらず遠州が好みの石の置きどころかな
句を讀みて泣かむか世をば怒らむか一茶はまこと寒く生きたり
啄木と何かを論じたる後のかの寂しさを旅にもとむる
佐渡に来てふとおもへらく蓑笠の長塚節来しはいつごろ
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※ 吉井勇は、多くの文人と交流している。石川啄木、木下杢太郎、北原白秋、長塚節、与謝野鉄幹、森鴎外など。それらを基盤に多くの作品を残した。歌人、柳原白蓮の姪と結婚したが、妻が「不良華族事件」に関与していたため離婚し、しばらく高知県に隠棲していた。
平成31年1月23日 記