杜 牧
烏江亭(うこうてい)に題す
唐 杜 牧
勝敗は兵家も 事(こと)期せず
羞(はじ)を包み恥を忍ぶは 是れ男兒(だんじ)
江東(こうとう)の子弟 才俊多し
捲土重來(けんどちょうらい)未だ知るべからず
【口語訳】
勝敗は、戦略家でさえも予測できるものではない。たとえ敗れても恥辱に耐え再起を計ってこそ真の男子といえる。項羽の本拠地である江東の若者たちには優れた人物が多いので、土けむりを巻き起こすような勢いで今一度出直していたなら、どうなっていたか分からない。
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※四文字の熟語「捲土重来」は、この漢詩を由来とする。一度敗れたり失敗したりした者が、再び勢いを盛り返して巻き返すとの意であり、「捲土重来を期す」などと使われる。
平成29年5月25日 記
山行
唐 杜牧
遠く寒山に上れば石径斜めなり
白雲生ずる処人家有り
車を停めて坐(そぞろ)に愛す楓林(ふうりん)の晩(くれ)
霜葉(そうよう)は二月の花よりも紅なり
【口語訳】
はるばると晩秋の山に登ると石の多い小道がうねうねと続いている。はるか先の白雲がかかっているあたりに人家が見える。私は車を停めて、晩秋の楓林の風情をのんびりと楽しむ。霜にうたれて紅葉した葉は、二月の桃の花より、ずっと赤々としている。
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※奥入瀬渓流を経て目に入った十和田湖の紅葉は、全山燃えるようであった。湖の周りには岩々が迫り、厳しく人間を遠ざけていた。この漢詩を読むたびに、35年前に見た十和田湖周辺の紅葉を思い出す。
平成27年4月18日 記
江南の春
唐 杜牧
千里鶯啼いて緑紅(みどりくれない)に映ず
水村山郭 酒旗(しゅき)の風
南朝 四百八十寺(しひゃくはっしんじ)
多少の楼台 煙雨の中(なか)
【口語訳】
千里四方に鶯(うぐいす)が啼いている。そして緑の葉の色と赤い花の色とが照り映えている。川のほとりの村に、山裾の村に、酒屋の目印ののぼりに春風が吹いている。南朝時代の480もの寺、その楼台がぼ-っとけぶる春雨の中に見える。
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※明るい農村の景色の前半と古い都の雨の佇まいの後半、典型的な情景を見事にとらえた詩である。明るい農村は、晴れた中の春景色こそがふさわしい。また、幾多の歴史を変遷した古都は、回顧するための手段としての春雨が必須である。
そういえば、イタリアの古都シエナの街並みも靄(もや)がかかり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。靄で見えない街並みに過去への思いをはせるのも一興である。
平成27年4月17日 記
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