俵 万智

     「サラダ記念日」
 
                          俵万智

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終電車
また電話しろよと言って受話器置く君に今すぐ電話をしたい
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの
思いきり愛されたくて駆けていく六月、サンダル、あじさいの花
明日会う約束をしてこんなにも静かに落ちる眠りのみどり
自転車のカゴからわんとはみ出してなにか嬉しいセロリの葉っぱ
たっぷりと君に抱かれているようなグリンのセーター着て冬になる
寄せ返す波のしぐさのやさしさにいつ言われてもいいさようなら
一年は短いけれど一日は長いと思っている誕生日
万智ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校
なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き
ハンカチを忘れてしまった一日のような二人のコーヒータイム
子どもらが十円の夢買いに来る駄菓子屋さんのラムネのみどり
万智ちゃんがほしいと言われ心だけついていきたい花いちもんめ
 --------------------------------------------------------------------------
※ 短歌を難しい世界から、普段着の世界に導いたのは俵万智だ。誰もが一度は経験したようなことが平易な言葉で綴られていて、親近感をもってしまう。最初読んだ時、驚愕したが、その斬新さは心地よかった。          
 「明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終電車」
 「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ」
 「ハンカチを忘れてしまった一日のような二人のコーヒータイム」
どれも納得。 

            平成29年12月17日 記