俵 万智

     「サラダ記念日」
                俵万智

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終電車
また電話しろよと言って受話器置く君に今すぐ電話をしたい
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの
思いきり愛されたくて駆けていく六月、サンダル、あじさいの花
明日会う約束をしてこんなにも静かに落ちる眠りのみどり
自転車のカゴからわんとはみ出してなにか嬉しいセロリの葉っぱ
たっぷりと君に抱かれているようなグリンのセーター着て冬になる
寄せ返す波のしぐさのやさしさにいつ言われてもいいさようなら
一年は短いけれど一日は長いと思っている誕生日
万智ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校
なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き
ハンカチを忘れてしまった一日のような二人のコーヒータイム
子どもらが十円の夢買いに来る駄菓子屋さんのラムネのみどり
万智ちゃんがほしいと言われ心だけついていきたい花いちもんめ
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※ 短歌を難しい世界から、普段着の世界に導いたのは俵万智だ。誰もが一度は経験したようなことが平易な言葉で綴られていて、親近感をもってしまう。最初読んだ時、驚愕したが、その斬新さは心地よかった。          
 「明日まで一緒にいたい心だけホームに置いて乗る終電車」
 「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ」
 「ハンカチを忘れてしまった一日のような二人のコーヒータイム」
どれも納得。
 一昨日、NHKEテレで俵万智が講師になり短歌の講義する番組を放映していた。その中で聴講生が作成した短歌を講評する時間があった。俵万智は良い点や感心した表現だけを述べ、決して作品を貶すことがなかった。相手を受容しているのである。このことは出来そうで出来ないことである。ともすれば欠点をあげつらい、「この点を直せばもっと良くなるよ」などと言ってしまう。私は中学校の部活動で17年間剣道を指導していたが、欠点の指摘の連続であった。今思えば、あれで技量が伸びるわけがなかったのである。今となってはどうすることも出来ないが、その反省を踏まえて現在は相手の良いところを見るようにしている。俵万智の言動を見て改めて考えさせられた。 

            令和8年3月5日 記