高野素十

    高野素十(たかのすじゅう)

ひつぱれる糸まつすぐや甲虫(かぶとむし)
湖の月の明るき村に住む  
雪明かり一切経を蔵したる
僧死してのこりたるもの一炉かな
わが星のいづくにあるや天の川
纜(ともづな)をとくも結ぶも一と時雨
甘草(かんぞう)のとびとびのひとならび
方丈の大庇(おおひさし)より春の蝶
水打つて暮れゐる街に帰省かな
身辺にものの少き大暑かな 
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※茨城県(現在の取手市)に生まれる。「ホトトギス」の四S(水原秋桜子・山口誓子・阿波野青畝・高野素十)と呼ばれた。高浜虚子を信奉し、虚子の求めてやまなかった花鳥風月を独自の表現方法で詠い続けた。
 「ひつぱれる糸まつすぐや甲虫」は、中学校の教科書に取り上げられていて、広く知られている。ピーンと張った糸とそれにつながれた甲虫、緊張感の中に幼い日を追憶できる作品である。「僧死してのこりたるもの一炉かな」かくありたいものだ。 
         
   平成30年5月25日 記