菅原道真    

     「九月十日」
            菅原道真

去年の今夜 清涼に待す
秋思(しゅうし)の詩篇 獨り斷腸
恩賜の御衣(ぎょい)今此こに在り
捧持(ぼうじ)して毎日餘香を拝す

【口語訳】
 去年の今夜は清涼殿の宴で、お傍にはべらせていただいた。「秋思」という題で私が歌を詠んだことを思い出すとはらわたが引きちぎれそうだ。あの時、いただいた御衣は、今もここある。毎日捧げもっては、あの時の残り香を拝している。
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※左大臣藤原時平に讒訴(ざんそ)され、大宰府へ権帥として左遷され現地で没した学問の神として親しまれる。左遷される際詠んだ
「東風(こち)吹かば 匂ひをこせよ 梅の花 主(あるじ)なしとて 春な忘れそ」
は、つとに有名である。
 「断腸の思い」は、「晋の武将桓温が船で三峡を渡った時、従者が猿の子を捕らえて船に乗せた。母猿は泣き悲しみ、連れ去られた子猿の後を百余里あまりも追って船に飛び移った。が、そのままもだえ死んでしまった。母猿のはらわたを割いてみると、悲しみの余り腸がずたずたにちぎれていた。」という中国の故事に由来する。菅原道真の「断腸」も、そのような悲しみだったのだろう。

              平成27年1月25日 記