佐佐木信綱

         佐佐木 信綱

ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの曇
大門のいしずゑ苔にうづもれて七堂伽藍(しちどうがらん)ただ秋の風
真鶴の林しづかに海の色のさやけき見つつわが心清し
ゆきゆけば朧月夜となりにけり城のひむがし菜の花の村
波きるやおとのさやさや月白き津軽の迫門(せと)をわが船わたる
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※「ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの曇 」は古典的な名作である。「の」を効果的に使うことによってリズム感を出している。
  ところで、修学旅行で俳句もしくは短歌を作ることを課題に出した。女子生徒が、まさに薬師寺で「東塔の木目の奥にまだ残るあせし朱色に昔を思ふ」と詠った。東塔は1300年前に造られ、当時の面影を残していた。一方、西塔は昭和56年に再建され、まだ真新しかった。東塔と西塔を見て、かつてはこのようであったろうと詠んだのである。この学年は優秀で、もう一人の女子生徒が太秦広隆寺の弥勒菩薩を見て、「仏門を好かぬ我が目に映れども冴えて麗し弥勒像」という短歌を作った。後者の短歌を「最優秀賞」、前者を「優秀賞」としたことは言うまでもない。二人ともよく本を読む生徒であった。平成4年5月の修学旅行のことである。全員の作品を掲載した小冊子は、今も私の掌上にある。
              平成27年4月29日 記