佐久間象山

  吉田義卿を送る 
        佐久間象山

之の子 霊骨有り
久しく厭う ベツ躄(べき)の群
衣を振るう 萬里の道
心事 未だ人に語らず
則ち未だ人に語らずと雖(いえ)ども
忖度(そんたく)するに或は因有あり
行(こう)を送りて郭門(かくもん)を出ずれば
孤鶴(こかく) 秋旻(しゅうびん)に横たわる
環海(かんかい) 何ぞ茫茫(ぼうぼう)たる
五洲 自(おのずか)ら隣を成す
周流(しゅうりゅう)して形勢を究めよ
一見は百聞に超えん
知者は機に投ずるを貴ぶ
帰来(きらい) 須(すべから)く辰(とき)に及ぶべし
非常の功を立てずんば
身後 誰か能く賓せん

【口語訳】
 君は高い志をもった男だ。そこいらの俗人の群にまじっているのを長い間嫌っていたのだろう。そして君はいよいよ衣を一払いして、万里の道を旅立っていく君は心の中をまだ誰にも語っていない。誰にも語っていなくても、私には君の心がよくわかる。君を送って江戸の町外れの門を出ると、一羽の鶴が凛として秋の空を横切って飛んでいった。まるで君の高い志をあらわしているように、すがすがしい。この国のまわりは茫々たる海ばかりだ。だがその海の隣には世界の強国が日本に接しているのだ。行って世界の情勢を見てくるがよい。百聞は一見にしかずだ。知恵ある者は、機会を逃さない。そしてもちろん、時期を見て必ず戻って来い。君がどんなに大人物でも、大事を成し遂げてそれを表に出さなければ、君のまわりの誰が、君をよく評価するだろう。
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※吉田松陰は、佐久間象山に師事していた。ともに幕末の英傑であるが、松蔭は斬首され、象山は暗殺された。国をおもうに、今の政治家とは乖離がある。
           平成28年1月27日 記