菜根譚

                菜根譚(さいこんたん)

 花は半開を看、酒は微酔に飲む。盈満(えいまん)を履(ふ)む者は、よろしくこれを思ふべし。

【口語訳】
 花を観賞するなら五分咲きの頃、酒を飲むならほろ酔い加減の頃で止めておくのがよい。満ち足りた環境にある人は、このことをよく考えてほしい。
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※満ち足りた環境にある者は、時として傲慢になったり居丈高になったりする。それを警句している。人生の中で、自分の思い通りにならないことを抱えていることも大切なのである。しかし、ありすぎても卑屈になってしまうかもしれない。
          平成28年8月8日 記


                菜根譚(さいこんたん)

 水流れて而(しか)も境に声なし、喧(けん)に処して寂を見るの趣を得ん。山高くして而も雲碍(ささ)えず、有を出でて無に入るの機を悟らん。

【口語訳】
 大河は漫々たる水をたたえて流れていても、その辺りでは水の音がしない。騒がしい所で静かさを見出す妙趣(みょうしゅ)を会得するであろう。また、高山はいかに高く聳えていても、白雲の去来するのを妨げない。(この理を観ずれば)有心の域を越えて無心の境に妙機を悟るであろう。
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※これぞまさしく悟りの境地である。在りながら在ることすら意識しない。羨ましい。
            平成28年1月16日 記


                菜根譚(さいこんたん)

  隠逸(いんいつ)の林中には栄辱(えいじょく)なく、道義の路上には炎涼なし。

【口語訳】
 (栄誉や恥辱は世俗の生活に見られることで)世俗を逃れて山林に隠れるとなれば、栄誉や恥辱などというものはない。(人間の変化は小人の交わりに見られることで)道義をもって交わる路上となれば、人情が温かくなったり冷たくなったりする変化などというものはない。 
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※「隠逸の林中」で生活できないのが人間か。しかし、心の安逸を考えればかくありたいものだ。
            平成28年1月13日 記


                菜根譚(さいこんたん)

 功を建て業を立つる者は、多くは虚円(きょえん)の士なり。事をやぶり機を失う者は、必ず執拗の人なり。

【口語訳】
 大きな功績や事業を成し遂げる者は、多くの場合“あっさり”していて円満な人間である。事業に失敗しチャンスを無くす者は、例外なく執念深く、偏狭固執する人間である。
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※「晩節を汚す」という言葉があるが、権力に執着して失敗する人がいる。何事も執着してはいけない。
         平成27年1月23日 記


                菜根譚(さいこんたん)

 倹(けん)は美徳なり。 過ぐれば則ち慳吝(けんりん)となりて、鄙嗇(ほしょう)となり、反(かえ)りて雅道(がどう)を傷(やぶ)る。譲(じょう)は懿行(いこう)なり。 過ぐれば即ち足恭(すうきょう)となりて、曲謹(きょっきん)となり、多くは機心(きしん)に出ず。

【口語訳】
 倹約は美徳である。しかし、度を越すと“吝嗇家(りんしょくか)”となって、卑しくなり、目的とは反対に道を外れてしまう。 謙虚は、善行である。しかし、度を越すと“慇懃無礼(いんぎんぶれい)”となって、堅苦しくなり、魂胆があるように見なされてしまう。
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※何事もほどほどが大切である。しかし、なかなか、そのほどほどができない。
          平成27年1月11日 記


                菜根譚(さいこんたん)

  小人と仇讐(きゅうしゅう)することを休(や)めよ。 小人は自ずから対頭(たいとう)有り。 君子に向かって諂媚(てんぴ)することを休めよ。 君子は原(もと)もと私恵(しけい)無し。
【口語訳】
 つまらない人間と憎しみあうのは止めなさい。 つまらない人間は、それに似合う相手がある。人の上に立つ人間に、こびへつらうのは止めなさい。人の上に立つ人間は、もともと“えこひいき”などはしない。
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※よく上の人に媚びへつらう姿は見苦しい。何かしらの下心を感じてしまう。君子の上司であれば、重用はしないであろう。だから、必要以上に媚びへつらうことは、無意味なのである。
          平成26年12月23日 記


                菜根譚(さいこんたん)

 富貴の地に処(お)りては、貧賤(ひんせん)の痛痒(つうよう)を知らんことを要し、少壮(しょうそう)の時に当りては、須(すべか)らく衰老の辛酸を念(おも)うべし。

【口語訳】
人間、豊かな時には貧しい人の気持ちを理解し、若く元気な時には年老いて衰えた人の辛さを思いやることが重要だ。
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※人は、若い時、若さや勢いが未来永劫保証されていると勘違いしてしまう。いや、考えもしないかもしれない。しかし、その若さも束の間である。だからこそ、このような戒めが残っているのだろう。誰しもが、必ず老いに直面していく。
          平成26年12月22日 記


                菜根譚(さいこんたん)

 熱閙(ねつとう)の中に一冷眼(いちれいがん)を着くれば、便(すなわ)ち許多(きょた)の苦心思を省く。
 
【口語訳】
 あわただしく動き回っている状態であっても、冷静に当たりを見回すだけの余裕があれば、随分と心のイライラを解消することができる。

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※ついかっとなって怒りを爆発させてしまうことがある。しかし、一呼吸するだけで、その怒りが治まる時がある。剣道も「ため」が大切か。
          平成26年12月4日 記


                菜根譚(さいこんたん)

 
磨蠣(まれい)は当(まさ)に百煉(ひゃくれん)の金(きん)の如く、急就(きゅうしゅう)は邃養(すいよう)に非ず。 施為(しい)は宜(よろ)しく千鈞(せんきん)の弩(ど)の似(ごと)く、軽発(けいはつ)は宏功(こうこう)無し。

【口語訳】

 自分自身を修養するには、幾度も鍛える金属のように十分に磨きあげなければならない。急速に出来上がったものは、外見はそのように見えても、真の修養ではない。事をなすには、強靭なおお弓を引くように十分に注意してやらねばならない。軽率なことでは、偉大な功をなすことは出来ない。
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※物事を成し遂げるのに簡便な方法はないのである。少しずつ少しずつ前に進むしか手はない。それが成就の秘訣なのだ。
           平成26年12月3日 記



                菜根譚(さいこんたん)

 家庭に個の真仏(しんぶつ)あり、日用に種の真道あり。人能(よ)く誠心和気(せいしんわき)、愉色婉言(ゆしょくえんげん)、父母兄弟の間(かん)をして、形骸(けいがい)両(ふた)つながら釈(と)け、意気交(いきこもご)も流れしめば、調息観心(ちょうそくかんしん)に勝ること万倍なり。

【口語訳】
 家庭の中にこそ本当の仏がいる、日用に真の道がある。誠の心と和らいだ気、穏やかな顔つきと優しい言葉、親兄弟が体が解け合うように気持ちが交流するようにしていれば、ことさらに座禅を組まなくても何万倍も御利益がある。                

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※ 全ての根源は、家庭にある。それなのに、幼い子を虐待する親が後を絶たない。何という悲劇であろうか。貧しくとも家庭が和気藹々としていた日本は、どこにいってしまったのだろうか。拝金主義を見直さなければならない。
          平成26年11月22日 記



                菜根譚(さいこんたん)

                  
 人を信ずる者は、人未(いま)だ必ずしも尽(ことご)くは誠ならざるも、己は則ち独(ひと)り誠なり。人を疑う者は、人未だ必ずしも皆は詐(いつわ)らざるも、己は則ち先ず詐れり。

【口語訳】
 人を信用する者は、人は必ずしも皆が皆、誠実であるとは限らないが、少なくとも自分だけは誠実であることになる。人を疑う者は、人は必ずしも皆が皆、偽り欺くとは限らないが、少なくとも自分がまず偽り欺くことになる。

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※ 菜根譚は中国の古典の一つで、明代末期に成立した人生の書である。上記の文章は、自分の心は偽れず自分だけは知っているということを表している。少なくとも、自分の心だけには正直でありたい。
          平成26年11月21日 記