大伴旅人

    大伴 旅人(おおとものたびと)

世の中は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり
人もなき空しき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり
吾妹子が植ゑし梅の木見るごとに心むせつつ涙し流る 
さかしみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするしまさりたるらし
生まるれば遂にも死ぬるものにあればこの世なる間は楽しくをあらな
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※上三首は、妻、大伴郎女(おおとものいらつめ)を亡くした悲しみを率直に詠った短歌である。当時、人の死は婉曲的に表現するのが通例であったが、旅人は直接的に表現している。下二首は、酒好きな旅人の真骨頂ともいえる作品である。山上憶良(やまのうえのおくら)との交流も知られている。大歌人大伴家持(おおとものやかもち)は、旅人の子どもである。
 新年号「令和」の決定に伴って、その出典である『万葉集』が注目されている。「令和」は、太宰府の長官であった旅人が催した梅花の宴での序文から引用されている。『万葉集』は、天皇、皇族、防人、農民など幅広い階層の人たちの歌を掲載している。そのような歌集は『万葉集』だけである。その観点からしても、新年号の出典を『万葉集』に求めたことは当を得た決断ではなかったか。 
          平成31年4月4日  記