王維


      元二の安西に使するを送る 
                王維 

   渭城の朝雨輕塵をうるおす
   客舎青青(きゃくしゃせいせい)柳色新たなり
   君に勧む更に盡くせ一杯の酒
   西のかた陽關を出ずれば故人無からん

【口語訳】
 渭城の町には朝の雨が降って、軽い砂ぼこりをしっとりぬらしている。旅館の前の柳は雨に洗われて、青々とした葉の色がめにしみるようだ。さあ君、ここでもう一杯酒をのみたまえ。西の方、あの陽関を出たならば、もう共に酒を飲み交わす友人もいないだろうから。

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※雨に輝く柳の葉は、友達との別れを一層、際だたせている。人生は、常に一期一会、繰り返しはない。そんなことを感じさせる七言絶句である。
            平成27年4月16日 記




 鹿柴(ろくさい)
        王維

空山人を見ず
但(た)だ人語の響きを聞くのみ  
返景深林に入り
復た青苔(せいたい)の上を照らす

【口語訳】
 ひっそりと静まりかえった山の中に人かげは見あたらない。しかし、どこからかわずかに人の声が聞こえてくる。夕日の照り返しが奥深い林の中へとさしこんで、みどりの苔を照らし出している。
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※どこか懐かしい風景である。人は、このような風景に憧憬をもつものなのであろう。王維は、詩も画もよくし「詩の中には画があり、画の中には詩がある。」と評された人である。

                     平成27年4月15日 記