「我が愛する詩人の伝記」
室生犀星
再びカーテンが引かれたが、用意していた私はこんどは驚かなかった。ツメタイ澄んだ大きくない一重瞼の眼のいろが、私の眼をくぐりぬけたとき彼女は含み声の、上唇で圧迫したような語調でいった
「たかむらはいまるすでございます」
「は、いつころおかえりでしょうか。」
女の目はまたたきもせずに私を見たまま、答えた。
「わかりません。」
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※「たかむらはいまるすでございます」と言ったのは、高村智恵子である。もちろん「たかむら」とは、高村光太郎のことである。貧窮していた室生犀星は、瀟洒な家に住む高村光太郎に屈折した感情を抱きながら、下心をもって訪ねていくのである。北原白秋、高村光太郎、萩原朔太郎、堀辰雄など11名について書かれてある。
金沢には、犀川と浅野川の二つの川がある。犀川は、たびたび氾濫を繰り返してきたので「男川」、浅野川は、穏やかな流れで大きな氾濫がなかったので「女川」と呼ばれている。もちろん、室生犀星の「犀星」は、犀川から取ったものである。この二つの川から有形無形の影響を受けていたのであろう。
平成26年10月19日 記