村野四郎

        鹿
           村野四郎

    鹿は 森のはずれの
    夕日の中に じっと立っていた
    彼は知っていた
    小さい額が狙われているのを
    けれども 彼に
    どうすることが出来ただろう
    彼は すんなり立って
    村の方を見ていた
    生きる時間が黄金のように光る
    彼の棲家(すみか)である
    大きい森の夜を背景にして
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※緊張感が走る。残された時間はわずかだが、いかんともしがたいものがあった。深い闇がどこまでも続く。

             平成28年4月16日 記 



  鉄棒Ⅱ
        村野四郎

  僕は地平線に飛びつく
  僅(わずか)に指さきが引っかかった
  僕は世界にぶら下った
  筋肉だけが僕の頼みだ
  僕は赤くなる 僕は収縮する足が上ってゆく
  おお 僕は何処へ行く
  大きく世界が一回転して
  僕が上になる
  高くからの俯瞰(ふかん)
  ああ 両肩に柔軟な雲
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※自分の肉体だけを信じて一本の棒に下がっていく、一つの戦いだ。困難を乗り越えた素晴らしさは、何事にも通ずるだろう。

             平成27年3月20日 記