村上 鬼城
水すまし水に跳ねて水鉄の如し
ゆさゆさと大枝ゆるる桜かな
鷹のつらきびしく老いて哀れなり
痩馬のあわれ機嫌や秋高し
冬蜂の死にどころなく歩きけり
小春日や石を噛み居る赤蜻蛉
花ちつてきのふに遠き静心
夏草に這ひ上りたる捨蚕(すてご)かな
行く春や親になりたる盲犬
雷や猫かへり来る草の宿
大石や二つに割れて冬ざるる
念力のゆるめば死ぬる大暑かな
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※鬼城は貧しく病弱だった。その上、聾者だった。人にして、自己の才能を順境の中で開花させて生きることのできる幸福を享受し得る者は、何人いることであろうか。しかし、鬼城は人生の不条理の中で、不条理ゆえに自己の才能を開花させていく。まさに稀有の俳人であった。耳の病気と子だくさんという生活苦の中で句作に励み、自己の境涯や苦難の人生を詠み込んだ独自の作風を切り開いていった。
ところで、鬼城の俳句に「念力のゆるめば死ぬる大暑かな」があるが、この頃の暑さは、まさに殺人的。この俳句のようである。
令和2年8月28日 記