木下犀潭(きのしたさいたん) 

    壇の浦夜泊
         木下犀潭(きのしたさいたん) 

篷窗(ほうそう)月落ちて眠りを成さず
壇ノ浦の春風 五夜(ごや)の船
漁笛(ぎょてき) 一聲(いっせい)恨みを吹いて去る
養和陵下(ようわりょうか)水(みず) 煙の如し

【口語訳】
 苫葺きの窓から外を眺めると月は没してしまったが、いまだに眠れない。早朝、壇ノ浦の海域を吹く春風の中、漁船が出発していく。漁師の吹く笛は平家一門の恨みをこめているかのごとく響き渡る。安徳帝の陵を眺めやると、陵の下の水面が煙のようにわきたっている。
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※「平家にあらずんば人にあらず」と飛ぶ鳥を落とす勢いであったが、その権勢に驕り短期間に滅んでしまった。人の世は、まさに空しいものである。木下犀潭は、熊本藩の武士で儒学者、弟子に横井小南や井上毅らがいる。
           平成28年2月3日 記