外部
金井直
私は美しい「時」の
刃物のための
一本の鉛筆
そしてまた
削りとられて一緒に落ちる
鉛筆の芯
それゆえに
尖った私から
ある空白が埋められていく
すりへる私から
失われる者達の名が
書きとめられていく つねに
細い私の痕跡が私に
存在の理由を与えてくれる
だが 私は私によってえらびだされた
一つの言葉 一つのイメージの中に
どんな意味がかくされているのかを知らない
そして 私は
そこになぞがあるなら
それをときあかすための道具だ
しかし この私
誰かに使われている私は 一体
どんな人の手もとにむかって
みじかくなっていくのか
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※
平成28年4月5日 記
木琴
金井 直
妹よ
今夜は雨が降っていて
お前の木琴がきけない
お前はいつも大事に木琴をかかえて
学校へ通っていたね
暗い家の中でもお前は
木琴といっしょにうたっていたね
そして よくこう言ったね
「早く街に赤や青や黄色の電灯がつくといいな」
あんなにいやがっていた戦争が
お前と木琴を焼いてしまった
妹よ
お前が地上で木琴を鳴らさなくなり
星の中で鳴らし始めてからまもなく
街は明るくなったのだよ
私のほかに誰も知らないけれど
妹よ
今夜は雨が降っていて
お前の木琴がきけない
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※人間の最も愚かな行為が戦争だ。何気ない日常もささやかな幸福も奪ってしまう。
絶対に起こしてはならないことだ。
平成27年9月16日 記