伊藤 左千夫
鶏頭のやや立(たち)乱れ今朝や露のつめたきまでに園さびにけり
秋草のしどろが端にものものしく生(い)きを栄(さか)ゆるつはぶきの花
鶏頭の紅(べに)古(ふ)りて来し秋の末や我れ四十九の年行かんとす
おりたちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く
今朝のあさの露ひやびやと秋草や総べて幽(かそ)けき寂滅(ほろび)の光
亀井戸の藤も終りと雨の日をからかささしてひとり見に来し
竪川に牛飼う家や楓(かえで)萌え木蓮花咲き児牛遊べり
朝起きてまだ飯前のしばらくを小庭に出でて春の土踏む
池水は濁りににごり藤浪の影もうつらず雨ふりしきる
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※ 正岡子規に師事し、雑誌「馬酔木(あしび)」や「アララギ」を創刊したその歌風は万葉集を尊重した。門下に島木赤彦、斉藤茂吉、土屋文明などがいる。
この時季になると、「おりたちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く」が脳裏に浮かぶ。晩生(おく)の柿の収穫を迎えると、一段と寒さを感じるようになる。
令和元年11月6日 記