松尾芭蕉

   松尾  芭蕉

秋深き隣は何をする人ぞ
菊の香や奈良には古き仏たち
物いへば唇寒し秋の風
おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉
野ざらしを心に風のしむ身哉
秋十とせ却って江戸を指故郷
道のべの槿は馬にくわれけり
春なれや名もなき山の朝霞
山路来て何やらゆかしすみれ草
命二つの中に生きたる桜哉
辛崎の松は花より朧にて
馬をさへながむる雪の朝哉
旅人とわが名よばれん初時雨
ほろほろと山吹ちるか滝の音
古池や蛙飛び込む水の音
明月や池をめぐりて夜もすがら
初時雨猿も小蓑をほしげなり
田一枚植ゑて立ち去る柳かな
風流の初(はじめ)やおくの田植うた 
蚤しらみ馬の尿する枕もと
塚もうごけ我なく声は秋の風
この道や行人なしに秋の暮
葱白く洗ひたてたる寒さ哉
若葉して御目雫ぬくはばや
むざんなや甲の下のきりぎりす
あかあかと日はつれなくも秋の風
旅に病んで夢は枯野をかけめぐる
しら露もこぼさぬ萩のうねりかな
閑かさや岩にしみ入る蝉の声
五月雨の降のこしてや光堂
夏草や兵どもが夢の跡
草の戸も住み替はる代ぞ雛の家
菰(こも)をきてたれ人ゐます花の春
嵐山やぶの茂りや風の筋
清滝の水くませてやところてん
--------------------------------------------------------------------------------
※芭蕉の前に芭蕉なく、芭蕉の後に芭蕉なし。まさに他の追随を許さない。その作品は、憂愁にして恬淡、まさに到達し得ない境地である。
 田植えが終わり、やっと一息している。この頃いつも頭に浮かぶのは、
  田一枚植ゑて立ち去る柳かな
  風流の初(はじめ)やおくの田植うた 
の俳句である。
         平成30年5月15日 記