後鳥羽上皇
見わたせば山もと霞む水無瀬川夕べは秋と何思ひけむ
人も愛し人も恨めしあじきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は
奥山のおどろが下もふみわけて道ある世ぞと人に知らせむ
ほのぼのと春こそ空にきにけらし天のかぐ山霞たなびく
吉野山さくらにかかる夕がすみ花もおぼろの色はありけり
あやめふく萱が軒端に風すぎてしどろに落つる村雨の露
さびしさはみ山の秋の朝ぐもり霧にしをるる真木の下露
朝日さす御裳濯(みもそ)川の春の空長閑なるべき世のけしきかな
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※1221年、承久の乱で北条義時に敗れ隠岐に流され、その地で崩御した。神への法楽(ほうらく)や結縁(けちえん)にもなるという意識のもとで、平安末期以降には伊勢神宮に数々の歌人たちが百首歌を奉納している。「朝日さす御裳濯川の春の空長閑なるべき世のけしきかな」は、まさにその一首で、長閑で平和な世を誰もが喜んでいるとする内容だ。権力闘争の渦の中で、後鳥羽上皇には長閑で平和な生活は訪れなかった。
平成30年1月6日 記