藤原俊成
夕されば野辺の秋風身にしみて鶉鳴くなり深草の里
世の中よ道こそなけれ思ひ入(い)る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
四方の海を硯の水につくすともわが思ふことは書きもやられじ
なにとなくものあはれにもみゆるかな霞やたびの心なるらん
いろいろの木の葉に道も埋もれて名をさへたどる白河の関
昔思ふ草の庵の夜の雨に涙な添へそ山郭公
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※藤原俊成に師事した平忠度(たいらのただのり)は、平清盛の弟で歌人としても優れていた。平家一門と都落ちした後、従者と都へ戻り俊成の屋敷に赴き歌の巻物を託した。俊成は朝敵となった忠度の名を憚り、「千載和歌集」に一首のみ「詠み人知らず」として掲載している。歴史に翻弄される人間の姿が、そこにはある。
平成28年2月13日 記