藤原敏行
秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
白露の色はひとつをいかにして秋の木の葉をちぢにそむらん
すみの江の岸による波よるさへや夢のかよひ路人めよくらむ
秋の夜のあくるも知らずなく虫はわがごと物やかなしかるらん
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※「秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」は、まさに日本人の感性を表している。「かそけき音」に耳を傾けて、時の移ろいを感じてきたのである。日本人は、自然とともにあり、その中で生かされていると考えてきた。欧米人の自然と対峙して、征服するような考えとは対極をなしている。
枕草子「日入り果てて、風の音(おと)、虫の音(ね)など、はた言ふべきにあらず。 」とあるように、音が小さい場合は「ね」と読む。同じ音でも細やかな表現を駆使している。繊細な感覚をもっていたことが分かる。はたして多くの音に囲まれている現代人は、どうだろうか。毎日暑い日が続いているが、その刹那にも次の季節感がある。そんなことを感じられる心のゆとりがほしいものである。
平成26年8月6日記