芥川 龍之介

    芥川  龍之介

木枯らしや目刺にのこる海のいろ
庭土に皐月の蝿の親しさよ
咳ひとつ赤子のしたる夜寒かな
水涕や鼻の先だけ暮れ残る
青蛙おのれもペンキ塗りたてか 
木がらしや東京の日のありどころ
元日や手を洗ひをる夕ごころ
兎(ともかく)も片耳垂るる大暑かな  
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※芥川龍之介の「鼻」を読んで、夏目漱石は激賞したという。彼独特の人間の深層心理を剔抉(てっけつ)する作品は、本当に魅力的である。しかし、俳句は、違う印象を与える。
 萩原朔太郎は、龍之介の俳句について、「彼の俳句の風貌は、彼の人物と同じく粗剛で、田舎の手織木綿のやうに、極めて手触りがあらくゴツゴツしてゐる。彼の句には、芭蕉のやうな幽玄な哲学や寂(さび)しをりもなく、蕪村のやうな絵画的印象のリリシズムもなく、勿論また其角(きかく)、嵐雪(らんせつ)のやうな伊達や洒落ツ気もない。しかしそれでゐて何か或る頑丈な逞しい姿勢の影に、微かな虫声に似た優しいセンチメントを感じさせる。そして『粗野で逞しいポーズ』と、そのポーズの背後に潜んでゐる『優しくいぢらしいセンチメント』とは、彼のあらゆる小説と詩文学とに本質してゐるものなのである。」と批評する。
          平成30年6月15日 記