木下 利玄
牡丹花は咲き定まりて静かなり 花のしめたる位置の確かさ
街をゆき子供の傍をる時蜜柑の香せり冬がまた来る
曼珠沙華一むら燃えて秋陽(あきび)つよしそこ過ぎてゐるしづかなる径(みち)
いとし子のつめたきからだ抱きあげ棺にうつすと頬ずりをする
父母の涙ぬぐひしハンケチを顔にあてやり棺にをさむ
小さなる笠よ草履よはた杖よ汝が旅姿ゑがくにたへず
安らかにあれかし今はわが力及ばねばただそれのみをこそ
木の繁る上野の奥の土しめる谷中の墓地にわが子葬る
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※養子に出された木下利玄は、「幼くして実の父母と離されて、厳しい当主教育を受けた。その孤独や寂しさが短歌とか俳句への興味に向かわせたのだ」と回想している。3男1女をもうけながら、1男を残しながら幼くして我が子を失っていく。その悲しみは、いかばかりか。悲しみは、短歌に凝縮されている。小林一茶に酷似した境遇であった。
平成26年12月20日 記